中学受験で成功する「黄金法則」とは

① 予習シリーズの特徴と活用法

予習シリーズは量より質の教材である。各単元で学習する内容が冒頭にまとめられており、その単元の学習で身につけるべき読解方法が示されている。その部分を授業前によく読んでおく事が大切だ。このときに注意したいのは、読解問題の文章を読んでしまわない事である。実際の入試や模擬試験で出会うのは初めて読む文章ばかりだ。冒頭で学んだ方法を念頭に置いて、初見の文章でそれを実践するのが重要なので、文章を読んでしまうと読解の訓練にならない。

授業で実際に問題を解くときにも、冒頭で学んだ方法を実践するという意識をしっかり持って取り組もう。予習シリーズの読解問題は、基本と発展が一題ずつ用意されているが、基本レベルの文章は読みやすい場合もある。すらすら読めてしまうと、訓練すべき読解方法をあまり意識せずに正解が出せてしまう。すんなり出来てしまう問題であっても、どのような方法を用いて正解を出せているのかを意識しよう。

予習シリーズは体系的に読解方法を学んでいくのに適している。各単元で確実に方法を身につけ、自分が使える武器を増やしていこう。演習問題集も用意されているので、予習シリーズの発展問題以外に、演習問題集にも取り組んで反復、定着を図る事ができる。桜蔭中志望者であれば、演習問題集の「完成版」まで仕上げておこう。

各単元には文法や語句などの知識問題の解説と演習がついている。これも準拠した別冊の問題集があるので反復学習に活用しよう。漢字についてもシリーズに準拠した問題集を活用できる。これに加えて、桜蔭中志望者は「四科のまとめ」などを利用して、心情に関わる表現をきちんと学習しておく事。ただ表現の意味がわかるというだけではなく、自分の表現として使いこなせるレベルにしておこう。記述問題の対応に欠かせない道具になる。

※ 心情表現を中心とした語彙力強化の必要性について

「四科のまとめ」以外にも市販教材で語彙力を補っておく事は、桜蔭中対策として有効である。たとえば、国語の森が出版している「中学受験用・言葉力1200」などを使って、心情表現の語彙を増やしておこう。読書量の減少や生活場面における多様な言語使用機会の減少もあり、中学受験生の平均的な語彙力は昔に比べるとかなり低下している。語彙力に限らず、読解力、記述力も全般に低下傾向と言えるだろう。こうした現実に合わせて、中学受験の国語の問題も全体に易化傾向にあるように思えるが、最上位校に関する限りそのような事はない。桜蔭中志望者は早い段階(5年生)から語彙力強化に日々努めよう。特に心情表現を自分の言葉として使えるようにしておこう。

② 桜蔭中頻出分野の長文に慣れる

予習シリーズで扱われる文章に比べ、桜蔭中で出題される文章は長いものが多い。この長い文章を時間内に適切に読み解く訓練には、予習シリーズや演習問題集だけでは質も量も足りない。また、桜蔭中では「文芸論、芸術論」といった美学的文章、現代思想を含めた「哲学的文章」など、大学受験の現代文で頻出のテーマが出題される事が多い。この種のテーマの文章に親しんでおく事も大切である。文学的文章では「少女の心情、精神的成長」を描いた文章に慣れておきたい。そのためにも予習シリーズ以外の教材にも取り組んでおきたい。

  • 豊島岡女子、フェリス女学院、立教女学院、日本女子大付属などの過去問に、上記に通じるテーマの文章が見られるので練習材料になる。
  • 市販教材では文英堂の「塾で教える国語・実戦問題集」が活用できる。

③ 記述問題への対応力強化のために

桜蔭中の国語は中学受験国語では最高レベルの難易度を誇る。開成や灘など男子最高峰に比べても難しいと言えるだろう。しかし、むやみに難しい内容の文章を読ませ、難しい出題をしている訳ではない。設問や傍線部をきちんと読めば、正解に向かうための方向が示されている。段階を踏んで論理的に答えを組み立てていく事が大切である。その際に使う読解の方法や手順は、予習シリーズを体系的に学習する事で身につけられる。

しかし桜蔭中志望者には、予習シリーズや演習問題集の記述問題だけでは、文章自体の長さも難易度も不足しているし、設問の難易度も不足している。高いレベルの読解・記述の演習量が足りない。

予習シリーズにおける記述問題の演習量の少なさは、四谷大塚では志望校別特訓などで補っていく事になるが、6年生後半のスタートなので、5年生の段階から記述問題の演習があるサピックスや日能研に比べると絶対的な演習量で負けてしまう。もちろん記述問題への対応力は量だけでは強化できないし、量が害になる場合すらあるのだが、サピックスや日能研の生徒が桜蔭中合格者で多数を占める現状を考えると、演習量を確保しておく事も重要であろう。

②で紹介した教材以外に、市販の各中学の過去問を集成した問題集(特にみくに出版のものを推奨したい)を利用して、論理的文章では傍線部の言い換え問題、文学的文章では物語の心情記述問題を選んで丁寧に解いていくのも練習になるだろう。難しい問題は正解例を見てしまって、そこから逆に正解がどのような手順で組み立てられているかを考えていくのがよい勉強になる。

こうした場合も記述解答の添削は、なるべくプロの先生(塾講師)にしてもらいたい。正解を教えてもらうというよりも、正解に到達する手順を教えてもらう事、その問題だけに通じる読み方ではなく、同じスタイルの設問に対応できるような手順を学ぶ事が理想だ。しかし、集団塾の講師にそこまできめ細かい対応を要求するのは難しい場合も多いだろう。その場合には、記述の手順を段階的に学べる市販教材を活用するのもよい。

具体的には以下のような方法がある。

  • A,出口先生の論理エンジンを使った「読解・作文トレーニング」4“6年を使って、論理的対応力=段階的記述対応力を学ぶ。
  • B,啓明舎の「名作できわめる中学受験の記述・高学年用」や四進ジュニアの「記述完成Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ」を使って記述力を強化する。

予習シリーズを使う早稲田アカデミー生にも、四谷大塚生と同様の課題は存在するが、早稲田アカデミーでは5年生から始まるNN、6年生後半の記述演習問題集で桜蔭中受験に必要な演習量をカバーしている。ただし、NNを受講するには選抜テストで合格基準に到達する必要があり、そのための準備を早めに心がける必要がある。

また、そのような特別コースに入る以前に、通常授業で中位以下のコースに在籍していると、基本問題の解説が中心になり、演習問題集はおろか予習シリーズの発展問題すら十分に扱わない場合がある。それだけでは各単元が理解不足になりかねない。これでは桜蔭中志望どころではなくなる。国語の塾別学習法のページを参考にして、なるべく早い段階から日頃の学習方法を工夫して、選抜基準に到達できるレベルを目指そう。

しかし、頑張って勉強するのはいいが、やはり問題になるのは読解の質と量のバランスだ。類題を大量に反復して理屈ではなく身体で覚える事が有効な場合もあるが、消化不良のままでの大量反復は百害あって一理なしだ。演習量と読解の質のバランスの問題は、常に集団塾が直面するジレンマだ。

本音を言えば、受験国語の方法に通じた大人、可能であればプロの国語講師が、その受験生のレベルに合わせて、量と質のバランスをとりながら指導するのが最も望ましい。それが無理でも、読解の質の維持のためには、自分で解いた記述問題を添削してもらったり、個別のアドバイスをもらったりする機会は確保しておきたいところだ。

記述問題とは設問のポイント(条件・要求)を理解し、傍線部の手掛かりからスタートして、答えを組み立てていくものだ。つまり記述問題とは論理的な組み立ての問題なのだ。したがって余計に読解の質が重要になってくる。むやみに問題を解いても記述力は強化できない。

一見すると非常に難しく思える記述問題も、正解に到達する過程の第一歩は、接続語や指示語が重要な手掛かりになっていたりする場合が多い。これは桜蔭中であっても同様だ。論理的な組み立ての一歩一歩は基本の積み重ねなのだ。(この点で読解の方法を一つずつ大切に体系的に学んでいく予習シリーズは良い教材であると言える。)

しかし、良い教材も指導する側に問題があれば役には立たない。生徒が自分で論理的な組み立ての段階を追っていけるように、講師はうまく問いかけ、誘導していく必要がある。それが理想なのだが、ここでも集団塾のジレンマが問題になる。生徒一人ひとりのレベルは異なる。その生徒にわかる言葉・わかる理屈で答えの組み立てを教えるのが理想だ。けれども集団指導では一般化した論理で教えるしかない。授業時間の制約もあるので、結果的に一方的に答えを教える授業になってしまう場合もある。(本音を言えば、個別指導や家庭教師がマンツーマンで教えるのが理想である。集団指導では全員が満足する指導はできない。)

④ 四谷大塚6年生「週例テスト」の位置づけ

週末ごとに実施される週例テストは、解説授業まで含めて受講すると、まるまる日曜日がつぶれるボリュームになる。通常授業で週3日を費やし、日曜日もつぶれてしまうとなると、十分な復習の時間がとれず、消化不良になって学力低下という結果を招きかねない。テストと解説授業の組み合わせは得点力強化に有効な面もあるが、テストテストの繰り返しで消耗していくのは回避したい。通常授業にもあてはまる事だが、膨大な学習量に押しつぶされて学力不振に陥るというのが最悪のパターンだ。

⑤ 四谷大塚6年生「学校別対策指導の特別コース」の位置づけ

桜蔭中志望の四谷大塚生は、9月からスタートする特別コースを受講するべきだ。ただし、選抜基準に達していないと受講できない。2011年度の場合、7月実施の第2回合不合判定予備テストで、4教科総合の成績が男女各上位600位以内の生徒、もしくは6年生4教科必修講習の受講生で、8月下旬に実施された講習会判定テストで基準に到達した生徒に受講が認められたようだ。どこの学習塾でも、特別なコースの選抜方法や選抜基準には多少の幅もあり、例外的に受講が認められる場合もあるが、早めに基準を把握して準備しておきたい。

⑥ 「YTテスト・土曜特訓・日曜特訓・NNアタック・志望校別特訓」の位置づけ

早稲田アカデミー生

早稲田アカデミーでは、土曜日にYT教室、土曜日集中特訓(小6秋スタート)および日曜日には日曜特訓、NNアタック(小6春から夏)、NN志望校別特訓(小6秋スタート)などのオプション講座が用意されている。

早稲田アカデミーの看板講座で成果もあげているNNアタックは受講をお奨めしたい。看板講師の授業を受けるチャンスであり、早稲田アカデミー以外の塾の生徒とも交流できる。桜蔭中をはじめとした最上位校の講座であれば、早稲田アカデミーに限らず、どこの塾も力を入れてくるはずなので、授業の質も授業以外のフォローも厚くなるはずだ。ただし、NNの受講には選抜テストがあるので、受講するためにNNのテスト対策に早めに行っておくべきだ。

NNに合格できなかった場合は、土曜日集中特訓の「桜蔭中の国語」を受講する。土曜集中特訓も選抜テストがあるので、これもだめとなれば、日曜日特訓で補強してもらうしかない。

YTテストに関しては9月以降の受講をしなくてもかまわない。日曜日特訓も、上記のような場合を除けば、個々の学習状況や授業の様子を見て受講を決めればよい。9月以降の時期に量で押しつぶされる事がないようにしよう。

⑦ 他塾の学校別テストの位置づけ

早稲田アカデミーや四谷大塚の生徒は、常に塾のテストを受け続けているような状態なので、それだけでも消化不良になりかねないが、開成や桜蔭といった最上位校に最多の合格者を出しているサピックスの学校別サピックスオープンは受験しておきたい。サピックスの桜蔭対策が最高であると言うのではないが、サピックスのブランド力が最上位校の志望者を集めてしまっている現状を考えると、その生徒たちと他流試合をしてみる事は意味があるし、サピックスが持っている桜蔭中対策の情報やノウハウを学べる。他塾の生徒と勝負してみるのはモチベーションアップにも有効である。